しろくろ/あかのまじない/しるし

朝礼前
いつものようにデスクで歯を磨いてるハンサムさんの前に
しろくろのひとをさしだした
ハンサムさんは ぱあっと笑って受けとってくれた

ハンサムさんは解らないことが嫌いだ
あいまいにしない　しろくろわけるのに時間がかかる
一筋縄じゃいかない　人によってはめんどくさいひと
私は彼女のそういう所がすき
で
しろくろのマスクです


午後
ハンサムさんは

「ほんとかわいいなあ」

とマスクを讃えてくれ

「私考えたんです
　東京なんかへ行ったときにこのマスクつけていちにち歩いたら
　誰かが見てて　来年は確実に製品化されると思うんです
　だって欲しいですよ、コレ」

ほめすぎだと思ったけど
売れる　とか　売れない　とか金額で彼女はモノを考えないので
それはちょっと夢みがちな　嬉しい言葉だったりして



私は突然なんか作ってきてさしあげるので
こんなヘンテコリンなもの突然もらって
めんくらう　んじゃなくて
喜んでくれる

そんな人に恵まれてしあわせだなあと思った

ハンサムさんは
私が作った　しろくろさんを
愛しい、のように「かわいい」と言ってくれた
しあわせだなあと思った

雨の午後のおわり
枯れた植木鉢の集団
ちりばめた枯れ葉　秋の名残のもみじ
空き室の巻き貝　みどりの苔
終わってゆくしおれたピンク
茎のないあかい造花
あかい花が沈む　あかいゼリー
うつむいたあかいりんご
銀色の食器　整ったビー玉
蓋のあるツボ

魔女の家の玄関には　まじないの痕跡があったの
こっそり撮ってきたんだ　ないしょだよ

もうすぐ私の名刺ができる
と
上司君が電話で教えてくれた

「肩書きなんにします？」

と聞いてくれたので
何にしようかなあと思っていろいろ考えてしまった
黙ってる私に向かって

「デザイナーですよ」

と教えてくれた
肩書きがカタカナだとこそばゆくて恥ずかしい
おこがましい
ので
自分で決められたらいいのに　そしたら
どんな肩書きがいいかなあ　と
そのあとはいろいろ妄想した

[おやつ担当]とか
[ゆめみがち]とか
イミフメイなのがいいなあ





役職や
肩書きや
名刺を作ってくださるなんて
私にいのちをふきこむような仕草
こころからありがとうございます

[オカエリ]のしっぽ